帯のコピーで即買いした一冊、一気に読んだ。

「悲劇なんかじゃない これがわたしの人生」

運命の行方など誰にもわかりはしない。
逃れられない断崖から極限の秘密を抱えて生きていくことになった人間が、想いを馳せた相手と息子。その人物こそが事件を解き明かす当事者になっていく。
人との関わりを避けてきたはずなのに、その心の底にはありったけの人間の情愛があった。

「ありがとう。博美、ありがとう」

登場人物の有様がありありと瞼の裏に浮かび、涙せずにはいられない。

"悲劇"という言葉で片付けられない苦しみを抱えて生き抜いてきたから、思い残すことはなかっただろう。
それこそ一世一代の『異聞・曽根崎心中』の舞台の幕が下りるのだ。

運命の行方はわからないが、その足跡は確かに残っていく。
他人の価値観では測りきれない生き様がそこにある。

筆者の緻密なストーリー構造とともに、そこに横たわる情愛は本当に心に染み入るものだった。
一読をお勧めしたい一冊である。


祈りの幕が下りる時

 
東野 圭吾
講談社
2013-09-13