芥川賞作家・金原ひとみの作品「オートフィクション」です。
人と人とのつながりを少し違った視点から見つめ直す】時に、もしかするとヒントを得られるかもしれない作品です。

相変わらずの作風でした。
性と暴力と、そして狂気。
安易な言葉で片付ける気はありませんが、基本はこの三拍子でしょうか。
初めて読む人には斬新でしょうが、慣れてくるとちょっとした文章の緩みに飽きを感じてしまったりもしますが。斬新なのか、単に文学作品としての気品が欠けているのか、なかなか受け入れにくい人もいるかと思います。

「何ですか?オートフィクションって」
「一言で言えば、自伝的創作ですね。つまり、これは著作の自伝なんじゃないか、と読者に思わせるような小説です」


主人公は22歳の女流作家リンだ。「彼」とのハネムーンのシーンから始まり、作中で編集者と上記のような会話がある。
作中に本の(構造的な)ねらいに迫る会話を挿入するのはなんだかユニークな気もしますが、本書は22歳、18歳、16歳、15歳と遡る形で進行していく。

話を中心は常に"男"であり、それは"甘酸っぱい恋"とは程遠い"依存"だ。冒頭から過激な被害妄想が炸裂しているが、絶えず誰かに依存している主人公は痛々しくもあり、また一方でどこかに自分を見ることもあるだろう。
人は一人じゃ生きてはいけない-そんに陳腐なテーマは願い下げだろうが、それでも人は何かに依存したり、あるいは依存されることでしか自分を保っていけないときがある。そうでなければ「破綻」するからだろう。"アイデンティティの喪失"とでもいうのかな。

それは国だろうか。家族だろうか。恋人だろうか。友達だろうか。
信じては裏切られ、それでも何かを信じないと生きてはいけない。

一般的に人と人との関係が希薄になったといわれる時代で、リンの苦しみは(僕自身とはずいぶん価値観がかけ離れているものの)すごくリアリティがあるように思う。
「実体験」かそれに近しいものもいくつか含まれているとは思うけど、そうでないのが多いように思いますけどね。インタビューでは「逆手に取ってみたい」と書いてますしね。